江戸時代に出版された黄表紙などで人気を博したという妖怪「豆腐小僧」が、自らの存在理由を求めて旅をする。豆腐を載せた盆を手に、ただ立ちつくすだけの妖怪である自分は、豆腐を手放すと、ただの小僧になるのか、それとも消えてしまうのか。男女の色恋に赤面し、自分以外の妖怪におののいてしまう軟弱さにもかかわらず、胸に去来するのは「消えたくない」という強い思い。お盆の豆腐を落とさないように気遣いながら、豆腐小僧の珍道中がはじまる。 著者は、『嗤う伊右衛門』や『覘き小平次』など、怪談話を斬新な解釈で現代に蘇らせる一方、『どすこい(安)』などのパロディー小説も手がけてきた京極夏彦。本書では、史実のうえでも来歴のはっきりとしない妖怪の自分探しをテーマに、自由な発想と膨大な知識を駆使しながら、幕末を舞台とした冒険物語へと仕立てあげている。講談調のひょうひょうとした語り口と、豆腐小僧のとぼけた味わいが、おかしみを誘わずにはいられない痛快作だ。 特徴的なのは、豆腐小僧が自我に目覚めていく過程を軸にして、妖怪とは何かを順序だてて解説している点である。地震を説明するための妖怪「鳴屋(やなり)」や、死を悟った人間のけじめとして現れる「死神」。そのほか、狸や狐など、その由来や役割が、コミカルな物語に託して論じられる。しかし、そこから垣間見えるのは、人間が感得しなければ、消えてしまう運命を背負った妖怪たちの悲哀だ。本書には、近代化とともに失われていった日本人の心とは何かという深遠なテーマも映し出されているのである。(中島正敏)
京極流「妖怪論」
本書は,小説としてストーリーそのものを楽しむというよりは,小説仕立ての「妖怪論」を楽しむというのが相応しいと思います。よって,今までの京極夏彦氏の小説と同一平面上で論じないほうがよいでしょう。
そういう視点からは,本書は少々冗長かなとも思います。人により,好みも別れるでしょう。
もっとも,講談口調の軽快な語り口が,その点を緩和してくれています。
決して退屈な作品ではありませんが,読者がどこに重点を置くかで評価が分かれると考え,星4つとしました。
妖怪入門
無知な豆腐小僧という妖怪をナビゲーターとして、「妖怪とはなんぞや」ということを、面白オカシク学ぶ本。
筋は特別面白いことはないと思うが、語り部のくだけた噺家口調のおかげか楽しく最後まで読める。
妖怪と幽霊との違いが良くわからないという人には勿論のこと、キャラクター造形に興味がある人にもオススメできる内容。
ただ、紅葉豆腐っぽい装丁にしたために、少々値が張るのが痛い。
遊び心と調和がとれない値段だけが残念な本ではある。
京極さん好きなんですけど
残念…。
これ、京極さんが見た夢か何かに着色と脚色加えただけなのでは…?
独り言っぽくて、昔話にもならない感じでした。
自己満足の童話のような。
でも京極さんのほかの作品は好きなので、星三つの、大甘あげます。
出色の妖怪論+話芸
昔のB級映画の構成である。最後にてんやわんやの大騒ぎになり、主人公が(まさかの)大活躍で大団円。語りは落語のそれであり、軽妙でおかしく、しばしば語り手の半畳が入るのも楽しい。この古典的なつくりの作品は、ただ話の筋を追うだけでも斯様に十分楽しめるが、実はその真価はここに留まらない。
この作品の全編にわたって語られるのは、幽霊・お化け・妖怪をいかに定義するか、という大問題である。この理論がしっかりしているからこそ、この作品は生きるのである。私は医学生の頃、臨床実習をしているとき、教官から「お化けと幽霊の違いは」と問われ、とっさに柳田国男の解釈を述べた記憶があるが(病院実習中に何してるんだか・・・)、作者・京極夏彦の解釈はより具体的で、論理的である。すばらしい。
陰惨な作品が多い作者の優れた滑稽本である。これはまだ「ふりだし」だそうだから、愛すべき豆腐小僧の更なる活躍を期待したい。
京極ワールド
様様な妖怪、珍妙な語り口、楽しめました。 一言でおもしろかったです。 とにかく話の設定から進展具合、結末まで さすが京極夏彦って感じの素敵な世界が拝めました。 京極氏の妖怪論も非常に勉強になりました。何冊か京極さんの本読んでから一読することをお勧めします(・∀・)
講談社
覘き小平次 (C・NOVELS BIBLIOTHEQUE) どすこい。 (集英社文庫) 旧(ふるい)怪談―耳袋より (幽ブックス) 完全復刻・妖怪馬鹿 (新潮文庫) 覘き小平次
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